大学院修了後は大手の製造業に入社し、生産技術職として製造設備の導入や改善、管理にあたっていた。生産技術の仕事を通じ、高品質・高効率・低コストを実現するために何が必要かを肌で学べたことは、自分のその後のキャリアに大きなプラスになった。「設備を入れるのが生産技術の仕事ではない。設備が適切に使用されるように、その機械を使って働く人がより良く働けるようにデザインしていくことが仕事だ。」と教えられたことは現在の仕事にも大きな影響を与えている。生産現場の多様な課題を解決していく生産技術の仕事は充実していたが、この考え方を用いれば、より社会に貢献する仕事ができるのではないかという思いを抱いていた。まさにその頃に社会課題となっていたことが「介護」であった。国内人口の約3割が高齢者となることで引き起こされる2030年問題等、少子高齢化に起因する社会課題は幅広く、日本社会全体にとっても重要なテーマである。このような課題を知るにつれて、製造業で身につけた知識やスキルを生かすことで、社会課題の解決に貢献できるのではないかと考えるようになった。
時がたつほどその思いは高まり、医療や介護を専門領域とするコンサルティングファームに転職。コンサルタントとして国内各地を駆け回る中で懸念を覚えたのが、関西地方の現状だ。西日本の中心である大阪でも、組織における人材リソースは決して潤沢とは言えない。そのため経営企画や人事など、企業の持続的成長を図る部署に人手を割くことが困難になっている。課題は明確なのに手が回らない企業が少なくない状況を知り、大阪生まれで縁が深い私は、大阪・関西の企業をもっとサポートしたいと考えた。加えて、そのサポートを行うには自分自身にも、人事・組織を軸とした企業経営に関する幅広い視点が必要不可欠であると感じた。
日本総研を選んだ理由は関西に拠点があるだけでなく、面接などを通じて感じた社風にもあった。コンサルタントが自由闊達に意見を出し、自律的に活動していける環境があって、ここならきっと企業の経営に関わるさまざまなチャレンジができると思えたのだ。
現在は大阪本社のグループに籍を置き、組織・人事に関するコンサルティングを主な業務としている。所属するグループのミッションは、関西などの地方企業が東京に先んじて直面する「経営人材不足」、「経営基盤の脆弱さ」、「存続・成長の方向性の不透明感」といった課題に対し、地方拠点ならではの共感力と密着力を持って解決を支援することだ。クライアントから依頼された案件をただ解決して終わりではなく、地方企業ならではの課題を常に意識し、お客さまに寄り添っていく。実際、私もお客さまに向き合う中で組織・人事のフィールドを越え、経営計画の策定やシステム開発といったテーマまで扱うことは珍しくない。特に関西にはそうした仕事の広がりが多いように思う。お客さまに信頼していただき、時には企業の経営や将来の方向性までも提言していけることに、大きな責任と、大きなやりがいを感じている。
前職で専門としていた介護領域は、自分にとっての重要テーマとして現在でも取り組みを続けている。特に近年注力しているのは、「プロアクティブ人材」の育成である。労働人口の減少により、持続的な企業経営はこれまで以上に困難になっている。このような状況の中、中長期的な企業価値の向上に向けて、昨年から「人的資本経営」に取り組む企業が増えている。その人的資本経営を駆動させるラストピースとして注目を集めているのが「プロアクティブ人材」だ。これは端的に言えば「自律的に考え行動する人材」を指す。プロアクティブ人材は企業の持続可能性を生み出す駆動力となる一方で、その育成に向けた体系的な整理は多くの企業でいまだになされていない。これまでも世の中では人事に関わる多様なテーマが注目されてきたが、私たちのグループでは「プロアクティブ人材」こそ本丸のテーマだと認識しており、課題解決に向けたコンサルティングや提言などを進めているところだ。
日本総研が扱う案件は、どれもわが国や世界にとっての重要な社会課題に関わるものであり、当社のアウトプットによるインパクトも大きい。だからこそ私たちコンサルタントは、企業や組織の案件に携わりながらも、常にどこかで社会に対する意識を持つことが必要だと考えている。それは個人的な思い、例えば”怒り”から生じたものでもいい。
このままではいけないとか、こうあるべきではないかと考えた時にその重要性を伝え、課題の解決に向けた提案を発信していけるコンサルタントでありたいと考えている。
重要な社会課題には多様な人が関わる。当然、賛成する人ばかりではない。その時に、一人でも多くの人から共感を得られるよう工夫し、巻き込んでいける人が活躍しているように思う。ビジネスの経験以上に、社会への視線や周囲を巻き込むマインドがコンサルタントには求められている。