私が金融ITの領域に足を踏み入れるきっかけとなったのは、ブロックチェーン技術であった。大学院で人と機械のインタラクション(相互作用)を学ぶ中でITやコミュニケーションへの関心が高まり、自分の手で新たな技術を生み出し、社会に役立てたいという思いを抱くようになった。卒業後、その思いを胸に通信キャリアの研究所に入社。ヒューマンインターフェースの研究者としてキャリアを歩み始めた。 ウェブアプリケーションなどの分野で経験を重ねるうち、研究所でブロックチェーン技術を使ったプロジェクトがスタート。参画してみると、すぐにその分権的な仕組みや行動経済学的な奥深さに魅了され、研究にのめり込んだ。黎明期に研究に携わっていたこともあり、特許取得や事業会社への技術導入など多くの成果を得ることができた。さらに研究を続けていくつもりであったが、グループ内の人事交流によって、事業会社へ転籍。エンジニア、プロジェクトリーダーとして幅広い案件に携わり、研究開発だけでなくプロジェクトマネジメント業務も経験した。順調にさまざまな経験を積んだものの、そのまま組織のゼネラリストとしてキャリアを積んでいくべきかどうか葛藤があった。今後の人生で自分は何をやりたいのかを改めて考え抜き、やはり研究のスペシャリストでありたいと転職を決意した。
実は、日本総研にテクノロジーの研究組織があることは知らなかった。しかし転職活動の中で「先端技術ラボ」の存在を知り、レポートや学術論文を読んでみると質の高さや中立的な目線で技術を捉えている点に感銘を受け、この企業で研究者の歩みを続けたいと考えるようになった。入社の決め手となったのは、現在の上司でもある先端技術ラボの部長との面談だ。私は自由にアイデアを発揮できる組織でなければ、研究者として良い仕事はできないと考えていた。その思いに同意していただけたばかりでなく、日本総研がテクノロジーを重視し、研究においても自律性を重視した組織運営をしていることを聞いて、ここなら同じ価値観を共有して存分に働けるはずだと考えた。
一方で、自律性が高いとはいうものの歴史ある金融グループの中で多少の堅苦しさはあるのではと思っていた。ところが入社してみると服装は自由であり、在宅勤務の推奨やオフィス改革など新しい取り組みが行われていることはうれしいギャップだった。
先端技術ラボは、世の中にある先端技術のトレンドを幅広く収集・分析し、得た知見をもとにSMBCグループの事業に貢献する技術の目利き役だ。先端技術は期待が先行しやすく、危険性など本質的な部分が見えづらい。目利きをしてリスクを可視化できれば、企業はもちろん社会にも大きな価値がある。ここで私は、前職で手掛けていたブロックチェーン技術の調査・研究を続けている。文献等のリサーチに始まり、技術によっては自分でプログラムを組み、検証・評価を行う。得られた知見はSMBCグループにすべてとどめるのではなく、学会やセミナー、有識者との意見交換などを通じてさらなる品質向上に努めている。また、ビジネス課題を解決するための新技術を考案するなど応用研究にも積極的に取り組んでいる。
先端技術ラボでは、SMBCグループや社会にとって必要なことを自ら考え、探求しながら研究テーマを設定するのが基本だ。上意下達の風土でない反面、自律的に業務を推進し、成果につなげていくことが求められる。また、自身の業務にとどまらず先端技術ラボという組織が価値を発揮するためにメンバー一人ひとりが常に考え、お互いの考えを発信し、行動に移している。伝統的な価値観が残る研究所から来た私にとって、そのすべてが大きな驚きであった。
私自身、金融知識がほぼ無い状態であったため、金融グループの企業に入社することに不安もあった。しかし入社してみると、先端技術ラボのメンバーは金融システム開発の経験者が多く、知識が豊富で、いつも助けてもらっている。異業種から来た者にとって、教え合い、支え合う風土があることは本当に心強く感じる。私も、特許取得の推進や応用研究のプロセス標準化など前職で培った経験を生かして周囲をサポートしている。
日本総研では専門分野に合わせたキャリアフレームが設定されており、ゼネラリスト、スペシャリストそれぞれの道を志向できるため、どのようにキャリアを構築するか迷っている人も働きながら模索することが可能だ。スペシャリストである「ITプロフェッショナル」の場合もエキスパートからプリンシパルまでグレードがあり、専門性を突き詰められる。私は、まずはブロックチェーン技術を軸にITプロフェッショナルとしてのキャリアを目指し、新たな価値を創出してSMBCグループや社会に貢献したいと考えている。