前代未聞の大規模マーケティング調査を実施
ファクトに基づく分析・提言で
クライアントの社内変革を後押し。
企業の中期経営計画作成のプロセスに関わり、そこに知のエッセンスを吹き込むことができるのはコンサルタントの醍醐味の一つだ。入社2年目、私はある鉄道会社の中期経営計画の基本方針策定支援という大型プロジェクトの実質的なプロジェクトリーダーを務める機会に恵まれた。最初に実施したのは、沿線のお客様に対する小規模なマーケティング調査。普段この鉄道を使っているお客様が、沿線住民として何を求めているのかを分析する調査である。事前の仮説通りだったが、お客様の大半は鉄道の利便性や発着数の多さについてのみ評価しており、沿線の住みやすさや街の魅力に対してはあまり価値を見出していないという事実が浮き彫りになった。今後の人口減少社会を見据えた際、鉄道事業にとって、沿線の価値向上なくしてビジネスの発展はあり得ない。当初、中期経営計画で沿線地域の活性化計画をプランに盛り込む必要性について十分な社内のコンセンサスは醸成されていなかった。日本総研が提示した分析レポートは、沿線価値向上の必要性を訴える社内検討チームを大きく勇気づけるとともに、取り組みに対する社内のコンセンサスを形成する一助となった。
こうして、プロジェクトは沿線価値の向上をいかにして実現するか、その戦略を策定するという方向にシフトする形でいよいよ本格的に動き始めた。戦略の土台を考えるにあたって、我々が最も重要視したのは、沿線住民一人ひとりの毎日の生活、価値観、考え方をリアルに知ること。サンプルが多ければ多いほど、より客観的かつ精緻な分析が可能になる。「可能な限り沿線のお客様の声を拾おう」。この時、日本総研のプロジェクトメンバーは私を含めわずか4名(うち1名はディレクターのため実質的にプロジェクトをデリバリーするのは3名)。プロジェクトの規模に比して少人数の体制であったが、我々の方針は揺るがなかった。3名がコントローラーとなり、調査会社の方々の手を借りての大規模調査の実施が決まった。
沿線顧客のアンケートは6,000名を対象にするという大規模なスケール。利用者へのデプスインタビュー・グループインタビューは延べ20回を超え、一人ひとりの声を丁寧に拾った。我々が分析した情報を基に、クライアントのあらゆる部署を巻き込んで検討会議を実施する。中期経営計画の基本方針を発表するまでは約6カ月。絶対に遅らせることができない。各部門の事業目標に沿ってタスクを細分化し、こなしていく。プロジェクトメンバーの献身的な働きは、クライアントの期待に応えるんだという思いだけで支えられていた。プロジェクトメンバーの努力は、後日発表されたクライアントの中期経営計画の骨子として結実。プレスリリースの当日は、怒涛の半年間を乗り切った安堵感に全員が包まれていた。クライアントのねぎらいの言葉で、すべての努力が報われた気がした。コンサルタントとして歩み始めたばかりの頃の、いまだに記憶に鮮明に残る仕事だ。
大手自治体が大規模火力発電所を建設
参謀として技術アドバイザリーを実施。
入社4年目を過ぎ、エネルギー分野の案件を数多く手掛けた実績が評価され始めた頃のこと。自治体からの依頼としては、これまでにないタイプのオファーが私の元に来た。100万kW級の大規模天然ガス火力発電所の建設可否を判断するための調査分析プロジェクトである。東日本大震災直後、その自治体では計画停電の実施に踏み切り、これが地域の中小企業の経営を圧迫する非常事態を招いた。これを受け、その自治体のプロジェクトリーダーはエネルギーの安定供給の観点から地域における発電所の建設を検討すると宣言。この計画に必然性があるものなのか、実際に建設するならどの立地で可能かなどの技術面の分析検討を日本総研が任されることとなった。実際、その地域に発電所が建設できるような広い立地はそう多くはない。しかも、土地の利用用途は厳格に法で定められており、その立地で発電所というビジネスが継続可能なのか、発電所の設計・建設業務を分析するとともに、地域内の土地利用に係る法的制約、既存のインフラ整備状況など、あらゆる側面から検討を行う必要があった。どのようなプロセスをたどれば、最短の工期、最小のコストで火力発電所を立ち上げることが可能か。土地利用に係る計画変更手続きなども考慮に入れて検討を繰り返す。それはまるで複雑な連立方程式を解くのに似ていた。最終的に我々の提案は、延べ400~500ページにも及ぶ分厚い報告書となって提出された。「ここまで多面的に検討されているのは見たことがない。すばらしい分析だ」。報告会はテレビでも中継されたため反響は非常に大きかったが、中でもエネルギー業界の関係者や、同業であるシンクタンクの関係者からも賞賛されたのは嬉しかった。この案件が一つの名刺代わりになり、同様の志を持つ自治体から多数、お声掛けを頂くことになった。私はエネルギー分野のスペシャリストとして自分のキャリアを本格的に歩み出していった。
このプロジェクトでは、何よりチームメンバーに恵まれたことが印象に残っている。特にサブリーダーを務めたFさんに何度助けられたことか。プロジェクトでは自治体の担当チームから矢継ぎ早に分析依頼が届き、時間的に追い詰められる局面も多々あったが、焦る私に対して楽観的なFさんは常に努めて明るく振る舞っておりそれがチームの余裕にもつながっていった。実際、プロジェクト中はFさんに何度助けられたか分からない。Fさんはキャリア入社だが、前職で企業の経営改善や資金繰り改善など色々な修羅場を経験しており、多少のことでは動じない。いろいろなタイプのコンサルタントがいること、それも日本総研で働くことの魅力の一つだ。
リスボンのスマートシティプロジェクトを支援
日本とポルトガル企業のWin-Win関係を構築する。
近年、日本企業の海外進出を支援するプロジェクトを多く手掛けるようになってきた。現在取り組んでいるのはポルトガルにおけるスマート都市構想実現に向けた基礎調査。プロジェクトマネジャーとしてポルトガルに何度も飛び、現地企業と日本企業のニーズおよびシーズの擦り合わせ作業などに取り組んでいる。日本とポルトガルの企業がお互いにWin-Winの関係で推進できるテーマを絞り込み、ポルトガルのどの企業と日本のどの企業が手を組めるのか、ビジネスマッチングを行い、2013年9月にはリスボンで政府関係者や現地マスコミ各社を前にマスタープランのプレゼンテーションを実施。盛況のうちにセレモニーを終えた。約10カ月の長丁場のプロジェクトであったため、セレモニー終了時は万感の思いだった。
正解がないテーマに対して、知恵を絞り、チームメンバーと「答え」を模索しながら作り上げていく。コンサルティングで解くべき命題は、クライアントの精鋭が知恵を注ぎ込んでも方針が見えないような難しいテーマが多く、「答え」を作り上げる作業は容易ではない。「正解」がない世界だけに、「答え」に納得してもらうためには、ファクトに基づいた精緻な分析、そして「答え」を導く際のロジックの正確さ・緻密さが求められる。しかしそれだけでは単なるアナリシスで、コンサルティングではないだろう。精緻な分析、緻密なロジック、これらを前提としたうえで最後にモノを言うのは、コンサルタントの人間力。「この人が言うならこの方向でやってみよう!」クライアントのチームに腹の底から納得してもらうアウトプットを提示するには、コンサルタントとしていかに信頼をしてもらうかが重要だ。自分を信頼してくれたクライアントからの感謝の言葉を頂くと、プロジェクトの苦労も吹き飛ぶ。
誰もが悩む正解のないテーマに納得できる「答え」を指し示すことができるチャンスが豊富にあること、その結果としてクライアントから感謝の言葉を直接頂けること、これがコンサルティングの魅力だと思う。