立ちはだかった
風土・文化・価値観の『壁』。
これまでに関わったプロジェクトの中で、特に記憶に残るのは、海外の銀行勘定系システムを刷新した経験だ。この案件で、我々は初めて海外のベンダーが作るパッケージの導入に踏み切った。
「万に一つの『想定外』も、決してあってはならない」。それが我々のシステム開発のポリシーだ。しかし、協業したアメリカのパッケージベンダーのエンジニアには、そんな我々の思いがなかなか伝わらない。TV会議に姿を現す彼らは、「信じられない」というジェスチャーとともにこう言うのが常だった。「万が一のリスクを想定した場合の機能だろ?それっていつ動くんだ?なぜそこまで一生懸命に作る必要がある?」。「信じられないのはこっちのほうだ」私は喉まで出かかった心の叫びをぐっとこらえながら、彼らと向き合った。
殻をこじ開け、
相手を本気にさせるために。
ある日、ベンダーのエンジニアが来日し、日本総研本社にやってきた。こちらからつたない英語で詰め寄る。「何度言っても改修が進まない。どういうことだ」。彼らはあきれた口調でこう返してきた。「だから、なぜそこまでやる必要が?理解できない」。海外のベンダーにあうんの呼吸は通じない。必要最低限のこと以外はやる必要はないという考え方だ。だから、彼らを「その気にさせる」、「奮い立たせる」ことが必要だった。そのためには、まず彼らに信頼してもらうことが必要だ。その仕事の意図するところや背景を丁寧に粘り強く説明し、ホワイトボードを使いながら彼らとの真摯な対話を繰り返した。すると徐々に彼らとの間の溝が埋まっていき、我々の仕事に対する想いが伝わり始めた。諦めずに、何度も、根気よく。そうした積み重ねによって、いつしかベンダーのエンジニアたちは、完全に私を信頼してくれるようになった。文化、言葉、価値観のすべてが違っても信頼し合い、尊敬し合うことができれば、プロフェッショナルとしてお互い本気になることができるのだ。
目指すのは相互が尊敬し合い、
感動し合える組織。
100名を超える組織を統率する立場となった今、この部隊が常に活性化し、高いパフォーマンスを生み出す組織であり続けるために必要なものは何かを問い続けている。部下にいつも伝えているのは、一緒にシステムを作り上げるステークホルダーを尊敬し、かつ自分が尊敬される存在になれということだ。しかし、これは解のない世界だ。100の状況があれば100の解がある。だから部下に伝えるべきは、私自身の仕事との向き合い方であり、価値観だと思う。
人はなぜ働くのだろうか?そんな大きな問いにぶつかる時が私にはある。私自身、『仕事は仕事』という割り切った考えはできない。ディテールにこだわり、与えられた条件下で最高の品質を目指すということが、生きる上での私のプライドになっている。尊敬に値する人間になるために、いかに自分を磨き上げられるか。めぐり合った環境の中できれいな花を咲かせるために、常に自助努力を重ねてほしい。もちろん、私自身もそうあり続けたい。